Newsletter Vol.10

皆様、こんにちは!
「GCN 海外ビジネス情報」第10回目は、オーストラリアのニュースをお届けします。

 オーストラリアといえば、観光資源が豊富なことで有名ですが、天然資源が豊富なことで有名です。
 例えば、鉱石の生産・輸出で世界1位(2020年)、石炭の輸出で世界2位(2022年)、埋蔵量で世界3位(2020年)、液化天然ガス(LNG)の輸出で世界3位(2023年)など、わたしたちの生活に必要不可欠となる資源を豊富に抱える資源大国です。 

 日本とオーストラリア間の資源貿易を見ると、日本の石炭の約70%をオーストラリアから調達しており、日本にとってのエネルギー戦略上、重要なパートナーとなっております。
 脱炭素が世界的に叫ばれてはいますが、日本の全発電量に占める石炭火力の割合は現在も約3割を占めており、賛否はあれど石炭はまだまだ日本にとって重要なエネルギー資源の一つであります。

 また、ロシアとウクライナの戦争やイスラエルとパレスチナの戦争などにより、世界的にエネルギーの需給がひっ迫し価格も高騰してきております。世界的にエネルギー資源の調達合戦の様相を呈す中、オーストラリアのような安定供給先を確保することはとても重要となっております。 

一方で、オーストラリアとは、化石燃料の供給だけでなく、2050年の脱炭素実現に向けた動きでも関係を強化しております。 

このような日本とオーストラリアの関係を踏まえ、今号では、エネルギー供給という観点から、日本とオーストラリアの関係、今後の動向を交えてみていきたいと思います。

アジェンダ

1 資源大国、オーストラリア

2 オーストラリアからの輸出に大きく依存している日本のエネルギー

3 オーストラリアのカーボンニュートラルへの取り組み(国家水素戦略、CCSなど)

4 脱炭素に向けた日本とオーストラリアの共同開発

1. 資源大国のオーストラリア
オーストラリアは鉄鉱石だけでなく、石炭、天然ガス、原油などの豊富なエネルギー資源も抱える資源国であり、今後も脱炭素移行期のエネルギー供給を支える重要な役割を担うと考えられます(図1)。
足元でも、世界的な電力危機によるエネルギー需要の高まりから、液化天然ガス(LNG)や石炭の輸出額が急拡大するなど豪州のエネルギー輸出の存在感が高まっています(図2)。



また、各エネルギーのランキングは以下になります。
天然ガスの輸出量 世界5位(2023年)
1位 米国:2,155億立方メートル
2位 ロシア:1,757億立方メートル
3位 カタール:1,612億立方メートル
4位 ノルウェー:1,149億立方メートル
5位 オーストラリア:1,057億立方メートル
参照:JETRO「2023年の天然ガス生産量は世界で4兆2,829億立方メートル、OPEC加盟国合計はシェア15.7%」
液化天然ガス(LNG)の輸出 世界3位(2023年)
1位 米国:前年比9.4%増1,144億立方メートル(世界シェア20.8%)で最大
2位 カタール:前年首位のカタールは同2.0%減の1,084億立方メートルで
3位 オーストラリア:1,074億立方メートル
※日本の輸入元はオーストラリアからの375億立方メートルが最大
参照:「2023年の中東での天然ガス生産1.6%増、イランが世界3位、LNG輸出はカタールが世界2位
石炭の輸出量 世界2位
<GLOBAL NOTE 2022年世界の石炭輸出量 国際比較統計・ランキング>
1位 インドネシア 468,779千トン、
2位 オーストラリア 364,052千トン、
3位 ロシア 220,090千トン
参照:GLOBAL NOTE「世界の石炭輸出量 国別ランキング・推移
鉄鉱石生産量 世界1位(2021年)
<2021年の世界の鉄鉱石生産量 国別比較統計・ランキング>
1位はオーストラリア 565,032千トン
2位はブラジル 272,861千トン
3位 中国
参照:GLOBAL NOTE「世界の鉄鉱石生産量 国別ランキング・推移
EV関連資源の埋蔵量と生産量 リチウム世界1位(2020年)

世界が脱炭素社会を実現するには電気自動車(EV)普及などの環境インフラ整備も必要です。
EVの製造には銅やリチウム、ニッケル、コバルトなどの大量の資源が必要とされ、特にレアメタルの確保がEV普及の重要なカギを握るとみられています。この点では、豪州は世界有数の銅やレアメタルの埋蔵量を誇り、生産量の世界シェアでも上位に位置しています。(豪州のリチウムの生産量の世界シェアは48.8%の第1位、図4)
参照:フランクリン・テンプルトン「世界的な環境志向の高まりと豪州の資源の未来」
2. オーストラリアからの輸出に大きく依存している日本のエネルギー
日本は、化石燃料への依存度が高くエネルギー国内供給構成の内、84.8%を占めています。
また化石燃料の中の石炭は7割弱、LNGは4割弱をオーストラリアからの輸出により賄っています。現状化石燃料への依存が高い日本において、オーストラリアなくしては日本のエネルギーの安定供給は難しいと言っても過言ではないでしょう。

エネルギー国内供給構成の内訳

ー日本の化石燃料輸入先(2021年)※オーストラリアへの依存度が高い

引用:資源エネルギー庁
参照:三井物産株式会社「日本の3大エネルギー問題をわかりやすく解説!それぞれの対策や解決策を紹介」
   経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」、「今後の火力政策について
 
3. オーストラリアのカーボンニュートラルへの取り組み(国家水素戦略、CCSなど)
これまで、資源大国であるオーストラリアの化石燃料について見てきましたが、実はオーストラリアはカーボンニュートラルに積極的に取り組んでいます。みなさんご存知でしたでしょうか?

先に述べたように豊富な資源をもつオーストラリアでも温暖化を背景とした山火事や度重なる洪水の発生などにより、国民の気候変動問題への関心が高まっています。またパリ協定の下、2030年までに排出量を2005年比で26~28%削減すると目標を定めており、かつ2021年10月には、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロを目指す計画を発表しています。

2019年からのオーストラリアのカーボンニュートラルに向けて取り組み

2019年11月 オーストラリア連邦政府「国家水素戦略」を発表
 >>日本、韓国、中国向けの水素需要を想定し、2030年までにグリーン水素製造拠点になることを目指す
・2020年9月「低排出技術ステートメント(The Low Emissions Technology Statement)」にてCCS言及
 >>今後優先的に投資すべき5つの低炭素技術の1つとしてCCSにも言及
2021年10月「長期排出削減計画」を発表
 >>2050年までに温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロを目指す
2022年6月 国が決定する貢献(NDC)を国連に提出
 >>温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに2005年比で43%削減、
2050年までにネット排出ゼロを実現するとの目標を定める
2022年9月 気候変動法を制定 目標を法制化した
>>2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で43%削減し、2050年までにゼロにするという、同国の目標を法律に明記するものである。
・2023年12月 国連気候変動オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、2050年ネットゼロ達成に関するレポートを発表
>>オーストラリアが2050年までにネットゼロエミッションを達成するための道筋を示す
2024年5月 2050年ネットゼロに向け新たに未来ガス戦略発表
>>2050年までのネットゼロ達成に向けてエネルギートランジションを進めることにも、ガスは重要なエネルギーと位置づけた
2019年11月 オーストラリア連邦政府「国家水素戦略」を発表
オーストラリアは「豊富な資源」と「市場となるアジアとの近接性」を生かして、国内で水素を製造し海外へ輸出する水素輸出国、世界的な水素大国となることを目指しています。
 ー2025年までに基礎研究と実証段階を終え、2030年までに「クリーンで革新的で競争力があり安全な水素産業」を創出
 ー特にアジア市場向け水素輸出国のトップ3入りを目指す 
日本との間でも、国境を越えた水素サプライチェーン構築を目指す取り組みが進んでいます。
また、オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)は、2040年(1年間)にオーストラリアの水素輸出額が約57億オーストラリア・ドル(約5,415億円、豪ドル、1豪ドル=約95円)(中位推計)になると試算
 ―日本、韓国、中国が輸出先として大きな比重を占めると予測
 ―ARENAによると、日本はオーストラリアにとって世界最大の水素需要国になる可能性が高く、また日本も国内需要の20%程度をオーストラリアから輸入すると予測されている。

参照:JETRO「豊富な資源と地理的好条件を生かし水素輸出国を目指すオーストラリア
2020年9月「低排出技術ステートメント(The Low Emissions Technology Statement)」にてCCS言及
技術の費用対効果を示す数値として、CO2の圧縮・輸送・貯留コストを1トン当たり20オーストラリア・ドル(約1,960円、豪ドル、1豪ドル=約98円)未満に引き下げる目標を設定している(2020年9月25日付ビジネス短信参照)。
2021年10月オーストラリアの長期排出削減計画(Australia’s Long-Term Emissions Reduction Plan)を発表
オーストラリアのスコット・モリソン首相は2021年10月26日、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロを目指す「長期排出削減計画」を発表。この計画は課税などで国民や企業に負担を強いるのではなく、低排出技術への投資によって排出削減を目指すとするモリソン政権のこれまでの方針に沿った原則が示された。なお、目標は法制化せず、計画の進捗状況は5年ごとに見直すという事です。

参照:JETRO「モリソン首相、2050年までにネットゼロを目指すと発表

一方では、世界が脱炭素社会を実現するには長期間を要するとみられ、移行期にはエネルギーの安定供給を確保することが不可欠と考えられていて、オーストラリア政府は2021年6月、石炭の産出と輸出を「2030年を優に越えても」継続する方針を示しました。
2022年9月 気候変動法を制定 目標を法制化した
2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で43%削減し、2050年までにゼロにするという、同国の目標を法律に明記するものである。前政権では、2030年までにGHG排出量を2005年比で26~28%削減するとの目標(NDC)を定めていたが、現政権はこれを大幅に前倒しすることで、GHG削減により積極的な姿勢を示した。
*NDC:温暖化ガス排出削減目標

参照:JETRO「カーボンニュートラル達成へCCSやCCUSを推進(オーストラリア)
■2023年12月 国連気候変動オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、2050年ネットゼロ達成に関するレポートを発表
ネットゼロエミッションへの道 - 迅速な脱炭素化達成のためのオーストラリアの視点外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と題するレポートを発表した。本レポートは、オーストラリアが2050年までにネットゼロエミッションを達成するための道筋を示し、国内の産業界、政府などに対して提言を行うものだ。

参照:JETRO「オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、2050年ネットゼロ達成に関するレポートを発表
■2024年5月 2050年ネットゼロに向け新たに未来ガス戦略発表
2050年までのネットゼロ達成に向けてエネルギートランジションを進めることにも、ガスは重要なエネルギーと位置づけた。
まず、オーストラリアは地球規模での温室効果ガス(GHG)排出削減の支援を約束し、2050年までにネットゼロを達成するとした。その上で供給面では、国内向けには適正な価格を維持することや、海外向けには、ガスの安定供給元として信頼できる貿易のパートナーとしてあり続けるとした。
これら原則に基づいた行動計画の主な概要)は次のとおりで、ハイライトの箇所が、脱炭素に関係しています。
 ーガス供給不足の未然防止
 ーガスから生じるGHGの排出削減
 ー産業や家庭でのエネルギートランジション支援のための、ガス価格水準の適正な管理
 ー開発で周辺先住民の権利に対する配慮や利益配分の追求
 ー国内や周辺地域間の二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)の促進

参照:JETRO「連邦政府、2050年ネットゼロに向け新たに未来ガス戦略発表
※脱炭素と、カーボンニュートラルとの違い
脱炭素とは簡単に言うと、二酸化炭素の排出量をなくしてゼロを目指すことです。 
カーボンニュートラルが排出してしまった温室効果ガスをさまざまな方法で相殺して実質ゼロにするのに対し、脱炭素は実質ゼロではなく、二酸化炭素の排出量を減らしてゼロを目指します。
また、カーボンニュートラルがメタンやフロンガス類を含む温室効果ガスに対する取り組みである一方、脱炭素は二酸化炭素に焦点を当てている点も大きな違いです。
4. 脱炭素に向けた日本とオーストラリアの共同開発
日本企業 脱炭素社会へ日豪の連携
オーストラリアでは、2022年に連邦政府が2050年カーボンニュートラル達成に向けた具体的な目標の大幅な前倒しを発表して以降、地場企業だけでなく、日本企業によるさまざまな脱炭素ビジネスでの現地参入や、地場企業との連携などの発表が続いている。
現地の日本企業は、新しいビジネス拡大の機会を見つけ出そうと動き始めています。

カーボンニュートラル達成へCCSやCCUSを推進(オーストラリア)
オーストラリアは、海洋環境保護を目的とした国際条約のロンドン条約・1996年議定書(以下、ロンドン議定書)の締約国で、アジア大洋州地域では数少ない締約国の1つです。ロンドン議定書第6条2項の2009年改正に基づき、連邦政府は2023年に海底でのCCSを目的としたCO2の越境輸送を可能とする国内法を連邦政府が議会へ提出し、事業環境整備を進めています。また、CCSプロジェクトの数が最も多い西オーストラリア州では、2023年11月に州政府が関連州法の改正法案を州議会に提出しました。

*「CCS」「CCUS」とは?
「CCS」=「Carbon dioxide Capture and Storage」=「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。
発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです。
「CCUS」=「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」=分離・貯留したCO2を利用しようというものです。


■日系企業、日豪CCSバリューチェーン構築を検討
2023年に入り、以下のような日豪間の「CCS事業バリューチェーン」構築を検討する案件が発表されています(表3参照)。
―日本企業がオーストラリアの研究機関と共同でCO2 の大量輸送に関する技術開発に取り組む事業
ー日本の火力発電所や産業界で排出されたCO2を回収し、オーストラリアに輸送、同国内の海底や地中で貯留

これらは、気候変動対策として日本の炭素排出削減につながるだけでなく、日本企業が強みを持つCO2の分離回収技術の活用や、日本企業が実績を持つLNGの輸送船舶技術を通じた液化CO2船舶大量輸送技術の開発と活用も検討されています。
このような技術と事業モデルで日本が世界に先行し、CCS・CCUSに実績のあるオーストラリア企業や研究機関などと連携すれば、日本だけでなく、周辺のアジア地域の排出削減に貢献する脱炭素ビジネスの機会として広がる可能性があります。



参照:JETRO「カーボンニュートラル達成へCCSやCCUSを推進(オーストラリア)

■日豪間で水素サプライチェーン構築
オーストラリアで水素を製造し日本へ輸出する、こうした水素サプライチェーン構築に向けたプロジェクトとして、「水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクト」があります(2022年1月24日付ビジネス短信参照)。日豪両政府も支援する同プロジェクトは、世界初の液化水素実証事業であり、2022年に実証を完了しました。

【参加企業・機関(項目/プロジェクト名ごと)】
第1段階:水素エネルギーサプライチェーンプロジェクト(HESC)
川崎重工業、電源開発、岩谷産業、丸紅、住友商事、シェル、ENEOS、川崎汽船、HySTRA(技術研究組合)、エージーエルエナジー
第2段階:液化水素サプライチェーン商用化実証プロジェクト
第2段階製造:電源開発、住友商事液化と輸送:日本水素エネルギー、川崎重工業、岩谷産業

参照:JETRO「豊富な資源と地理的好条件を生かし水素輸出国を目指すオーストラリア

日本政府も後押し「資源国脱炭素化・エネルギー転換技術等支援事業費補助金」
経済産業省は、上記のようなプロジェクトに関して日本と相手国等との友好協力関係を象徴するようなモデル事業として将来的に位置づけられることを期待するとともに、我が国の資源の安定供給に資することを目的とし、資源国脱炭素化・エネルギー転換技術等支援事業費補助金を設けています。

その補助金とは、資源国における化石燃料産業等の基盤施設・設備の脱炭素化・低炭素化に係る取組や、水素、アンモニア、バイオ燃料をはじめとする産業の脱炭素化・低炭素化に資する燃料分野にかかる日本の有する先端技術の移転に係る取組について、これら取組のための調査・研究等や取組を実施する事業を行う者に対する支援を行うものです。
活用例)東京ガス「豪州におけるe-メタンの製造・輸出に向けた詳細検討(Pre-FEED)を開始
日本はオーストラリアに資源を依存するだけでなく、2か国共同でエネルギートランジションに向けて動き始めています。今後の2か国の動き、それに関連した他国との関係もこれから注目していきたいと思います。

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2024年10月10日発行

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